医薬品や医療機器、化粧品などの製造販売を行う企業にとって、避けて通れない非常に重要な基準が「GVP」です。本記事では、GVPの定義や目的、求められる具体的な業務内容、実施体制(製造販売後安全管理三役など)、さらには他省令との違いまで詳しく解説します。
GVP(製造販売後安全管理の基準)とは?
まずはGVPの基礎知識として、正式名称や法的な位置づけ、適用される製品について説明します。
GVPの正式名称・読み方
GVPは、英語の「Good Vigilance Practice」の頭文字を取った略称です。 日本語では「製造販売後安全管理の基準」と訳されます。
GVP省令の位置づけ
GVPは、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(通称:薬機法)に基づき定められた、厚生労働省令第135号(GVP省令)に規定されている法令です。医薬品や医療機器などの製造販売業許可(メーカーとして上市・流通させるライセンス)を取得・維持するためには、このGVP省令を遵守した体制が整備されていることが許可要件の一つとして義務づけられています。つまり、GVPを遵守できない企業は、対象となる製品を日本国内で製造・販売することができません。
GVPの対象
GVPの基準が適用される製品区分は、薬機法で指定されている以下の5つの区分です。
- 医薬品(医療用医薬品、一般用医薬品など)
- 医薬部外品(薬用化粧品、薬用歯磨き、育毛剤など)
- 化粧品
- 医療機器(ペースメーカーから絆創膏、診断プログラムまで)
- 再生医療等製品
それぞれの製品リスクや特性に合わせて、満たすべきGVPの要件(第一種から第三種までの区分など)は異なりますが、いずれも市販後の安全性情報を正しく管理する責任があります。
GVPが必要な理由
なぜ製品を販売した後に、これほど厳格な安全管理が必要とされるのでしょうか。その主な理由は3つあります。
1)市販後リスクの把握
医薬品や医療機器は、販売される前の段階(臨床試験や治験など)で、厳格な審査を経て安全性と有効性が確認された上で「承認」されます。しかし、治験に参加する被験者(患者様)は人数が限られており、使用される環境も厳しくコントロールされています。市販後に何万人、何十万人という多様な患者様(高齢者、妊婦、合併症を持つ人など)が長期間使用するようになると、承認前には予測・把握しきれなかった稀な副作用や不具合が顕在化する可能性があります。これを速やかに捉えるためにGVPに基づく対応が求められます。
2)副作用・不具合への早期対応
市販後に、副作用の発生件数が増加したり、これまでにない未知の有害事象が報告されたりした場合、迅速に行動を起こさなければ被害が拡大してしまいます。GVPに則って日常的に安全情報を収集・分析していれば、必要に応じて「電子添文の改訂(注意喚起)」「製品の回収(リコール)」「出荷停止」などの安全確保措置を実施し、早期にリスクを最小化することが可能になります。
3)薬機法上の義務
製造販売業者にとって、GVPの遵守は一時的な努力義務ではなく薬機法上の法的義務です。もし安全管理業務を怠り、基準に違反している(GVP不適合)と判断された場合、業務改善命令や業務停止命令を受けたり、最悪の場合は製造販売業の許可が取り消されたりする重大な法的ペナルティを科されるリスクがあります。
GVPで定められた具体的な業務
GVP省令において、製造販売業者が行うべきとされている具体的な業務プロセスは、大きく以下の3段階に分類されます。
【GVP業務の流れ】 1. 安全管理情報の収集 ▶ 2. 情報の検討・評価 ▶ 3. 安全確保措置の実施
1)安全管理情報の収集
まずは、自社製品に関する安全管理情報をあらゆるルートから漏れなく収集します。主な情報源には以下のようなものが挙げられます。
- 患者様からの報告
- 医療関係者からの報告(医師や薬剤師、歯科医師などからの副作用情報・不具合情報)
- 学会や学術文献(国内外の医学・薬学系雑誌、論文など)
- 行政・他社からの措置報告(厚生労働省やPMDAの発表、他社による同類薬の回収情報など)
- 製造販売後調査で収集された有害事象情報
- 海外の規制当局や提携企業からの報告
これらを漏れなく迅速に社内の安全管理部門へ集約する体制を構築する必要があります。
2)情報の検討・評価
収集したすべての安全性情報は、医学的観点から「検討・評価」されます。
- 因果関係の評価: 発生した有害事象(副作用・不具合)が、自社製品によって引き起こされたものなのかどうか
- 重篤性の判断: 死亡、障害、入院が必要なレベルなど、法令で定められた「重篤」なケースに該当するか
- 予測性の判断: 現在の使用上の注意から予測することができない副作用(未知)か、予測できる副作用(既知)か
これらを評価した結果、国(PMDA/厚生労働省)への速やかな報告義務があるかどうかを判定します。特に、重篤な副作用・不具合、死亡例、未知の有害事象、または製品の品質不良に起因して健康被害が発生した可能性がある事例については、医薬品医療機器等法に基づきPMDAへの報告が求められます。
報告期限は事象の内容や緊急性によって異なり、重篤かつ迅速な対応が必要な事例は15日以内、それ以外の対象事例は30日以内など、法令で定められた期限内に報告を行います。また、個別症例の報告だけでなく、同様の事象が継続的に発生していないかを分析し、必要に応じて添付文書改訂や安全対策の実施につなげます。
3)安全確保措置の実施
検討・評価の結果、安全対策を講じる必要があると判断された場合は、速やかに具体的な「安全確保措置」を決定し、実施します。具体的な措置の例は以下の通りです。
- 電子添文の改訂: 新たな副作用や使用上の注意、禁忌事項などを追記する
- 医療関係者への情報提供: 「緊急安全性情報(イエローレター)」や「安全性速報(ブルーレター)」、適正使用のお願い文書等を配布する
- 製品の回収(リコール): 製造上の不具合や重篤な健康被害リスクがある場合、流通している製品を自主回収する
以上がGVP業務で発生する主なプロセスになりますが、すべてのプロセスにおいて、いずれも文書として記録を残すことが必要です。「いつ、どのような情報を入手し」「どのように評価・判断し」「いつ、どんな措置を決定し、実施したか」について適切に記録を作成し、法令で定められた期間(製品の特性に応じて5年間〜数十年間など)適切に保存しなければなりません。これらは行政査察(GVP査察)が入った際の客観的なエビデンス(証拠)となります。
GVPの実施体制と継続的な運用
GVP業務を社内で適切に機能させ、継続的に運用していくためには、強固な体制づくりと手順書の整備、そして継続的な見直しが不可欠です。
GVPに関わる三役の役割
製造販売業の許可要件として、以下の「製造販売後安全管理三役(または三役)」と呼ばれる責任者を設置することが定められています。
- 総括製造販売責任者: 製造販売業全体の業務(品質保証および安全管理)を統括するトップ。医師、薬剤師などの資格要件があります。
- 安全管理責任者: GVP業務を実務レベルで統括・監督する責任者。安全管理部門の長として、情報の収集・評価、措置の決定を主導し、総括製造販売責任者に報告・意見具申を行います(医薬品等の販売に係る部門に属する者であってはならない等の独立性要件があります)。
- 品質保証責任者: 品質の基準である「GQP(Good Quality Practice)」の実務責任者。GVPとGQPは密接に連携する必要があるため、安全管理責任者と常に情報共有を行います。
GVP手順書の整備
主観や担当者の経験に頼った属人的な運用を防ぎ、誰が対応しても同一の基準で安全管理が行えるよう、「GVP手順書(製造販売後安全管理業務手順書)」を作成・整備することが義務づけられています。手順書には、安全管理情報の収集手順、評価方法、報告のルート、措置の立案・実施手順、文書の保管管理方法などを詳細に規定し、常に最新の法令に適合するようアップデート(改訂)し続ける必要があります。
教育訓練と自己点検による改善
手順書を作るだけでなく、関係するすべての従業員がその内容を正しく理解し、実践できなければ意味がありません。そのため、定期的に「教育訓練(勉強会や研修)」を実施して手順の周知徹底を図ります。また、自社の安全管理業務が手順書や法令通りに正しく行われているかを客観的に評価する「自己点検(内部監査)」を実施し、発見された課題や不適合に対して是正・予防措置(CAPA)を講じることで、継続的な改善(PDCAサイクル)を回していきます。
GVPと他の省令との違い
医療・製薬業界には「GVP」の他にも、「GxP」と呼ばれる多くの省令(基準)が存在します。それぞれの役割と対象フェーズを理解し、違いを整理しておきましょう。
GLP・GCP・GMP・GDP・GQP・GPSPとの違い
開発(治験)から製造、市販後に至るライフサイクル全体における各省令(基準)の役割と対象フェーズを以下の比較表にまとめました。
| 省令(基準)名 | 正式名称 | 主な役割・対象フェーズ |
| GLP | Good Laboratory Practice (医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令) | 開発前のフェーズ:動物実験などの非臨床試験データの信頼性を担保するための基準。 |
| GCP | Good Clinical Practice (医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令) | 開発・治験フェーズ: 人を対象とした治験を安全かつ科学的・倫理的に行うための基準。 |
| GMP | Good Manufacturing Practice (医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令) | 工場での製造フェーズ: 製造工場において、製品が均質かつ安全に製造されるための基準。 |
| GDP | Good Distribution Practice (医薬品の適正流通) | 製造後~流通フェーズ: 医薬品の保管・輸送・流通において、医薬品の品質を維持し、適正な流通を確保するための基準。 |
| GQP | Good Quality Practice (医薬品、医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品の品質管理の基準に関する省令) | 市場への出荷・品質保証フェーズ: 製造販売業者が市場に出荷する製品の品質管理や、製造工場(GMP)を監督するための基準。 |
| GVP | Good Vigilance Practice (医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売後安全管理の基準に関する省令) | 市販後の安全管理フェーズ: 流通している製品の副作用や不具合の情報を集め、必要な措置を行う基準。 |
| GPSP | Good Post-marketing Study Practice (医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令) | 実臨床でのデータ収集フェーズ:承認後の広い患者集団から使用実態・有効性・安全性等のデータを収集し承認時に判明しなかった副作用や有効性の情報を収集するための基準。 |
GVPにおけるMRの役割
ここでGVPにおけるMRの役割も確認しておきましょう。
MR(医薬情報担当者)の業務は、GVPで「医薬品の適正な使用に資するために、医療関係者を訪問すること等により安全管理情報を収集し、提供することを主な業務として行う者」と定義されています。※1MRは、日々、医師や薬剤師などの医療関係者と直接対話し、最も早く重要な副作用情報や不具合情報に触れる立場にあります。
そのため、「現場で見聞きした副作用・不具合の疑い情報を、定められた期限内(極めて短いスパン)に、漏れなく自社の安全管理責任者(安全管理部門)へ報告する」という、安全性情報の最前線の収集パイプラインとしての極めて重要な役割を担っています。
※1:GVP省令 第一章第二条5:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=81aa6391&dataType=0&pageNo=1
GVP(製造販売後安全管理の基準)についてまとめ
GVP(製造販売後安全管理の基準)は、医薬品や医療機器などが市場に出た後も、患者様や医療現場に安全に届けられ、使われ続けるための命綱となる重要な制度です。
- GVPは、市販後の安全管理情報を「収集」「評価・検討」し、必要に応じて「措置」を講じるルール。
- 製造販売業の許可取得・維持のために遵守が義務づけられている。
- 安全管理責任者を含む適切な安全管理体制構築と、標準化された手順書の整備が必須。
正しいGVPの理解と実践を通じて、製品の安全性を極限まで高め、患者様の安全確保を実現するとともに、患者様や医療従事者からの揺るぎない信頼を築いていく必要があります。
GVPに基づく安全管理業務を外部委託する際のポイント
上記で説明したように、GVP業務(安全性管理業務・PV業務)は、患者様の命に関わる非常に重要な任務です。しかしながら、
- 国内外から日々大量に発生する文献や学会情報のスクリーニング業務が逼迫している
- 専門性の高いスタッフの採用や維持が難しく、属人化してしまっている
- 大量の安全管理情報を短い期限で対応継続しなければならず、スタッフが疲弊してしまう
といった、人的リソースや業務負荷に関する課題を抱える企業の声を聴くことがあります。その場合におすすめなのが、GVPに関連する安全管理業務を、専門的なノウハウを持つ外部パートナーにアウトソーシング(委託)することです。
委託する際のポイントとしては、
- 確実な法令遵守(SOP/手順書の厳格運用)ができる体制があるか
- 経験豊富なスタッフ(臨床開発・安全管理業務の経験者など)が揃っているか
- 委託範囲を柔軟に調整できるか(一連の評価・当局への報告案作成までか、国内症例対応or海外症例対応のみ、あるいは文献スクリーニングのみ委託など)
などが挙げられます。
専門の外部委託サービスを活用することで、社内メンバーは「最終意思決定」などのコア業務に注力できるようになり、安全性を高い水準で担保しながら業務全体の効率化とコストの適正化を実現することが可能になります。
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