医薬品や医療機器を取り扱う現場で耳にすることが多い製造販売後調査(PMS : Post-Marketing Surveillance)。
製品の発売後、実際の使用環境での安全性や有効性を確認するために重要なプロセスです。
実務に携わることになった際、「具体的にどのような種類があるのか」「市販直後調査とは何が違うのか」と改めて疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
本記事では、製造販売後調査(PMS)の主な種類や市販直後調査との違いといった基礎知識から、代表的な手法である「使用成績調査」の具体的な進め方、さらには最新の動向まで詳しく解説します。
製造販売後調査(PMS)とは?
製造販売後調査(PMS)とは、医薬品や医療機器が発売された後の患者様の安全を守る重要な取り組みです。
製品が承認され広く普及すると、医薬品等開発時の治験では分からなかった高齢者や合併症を持つ患者様への影響、長期使用による副作用など、「未知のリスク」が顕在化することがあります。
そのため、メーカー(製造販売業者)は販売後も継続的に情報を収集し、安全性を再確認する「市販後安全対策」を義務付けられています。
この取り組みは、厚生労働省が定める「製造販売後調査等の実施基準に関する省令」(GPSP省令※1)に基づいて実施されます。開発段階の治験は条件や対象が限定されるため、市販後の多様な患者背景(併存疾患や併用薬など)における使用実態を継続的に把握し、安全性情報をアップデートしていくことが製造販売後調査(PMS)の重要な役割です。
※1:医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令(平成16年12月20日厚生労働省令第171号)、略称としてGPSP省令(Good Post-marketing Study Practiceの略)。
製造販売後調査(PMS)と市販直後調査(EPPV)との違い
上記で説明した製造販売後調査(PMS)とあわせて、医薬品の薬事承認後に実施される代表的な調査として、「市販直後調査」(EPPV:Early Post-Marketing Phase Vigilance)という調査があります。いずれも、医薬品が販売された後の安全性を確認するための活動ですが、目的・実施時期・調査内容が異なります。市販直後調査は、医薬品の販売開始直後という限られた短期間に集中的に行われる調査で、重篤な副作用の早期発見を目的としています。
一方、製造販売後調査(PMS)は販売後の一定期間または継続的に実施され、長期的な安全性・有効性や使用実態の把握を目的とします。
| 項目 | 製造販売後調査(PMS) | 市販直後調査(EPPV) |
| 目的 | 長期的な安全性・有効性、使用実態の確認 | 重篤な副作用の早期把握 |
| 実施時期 | 販売後一定期間または継続的に実施 (医薬品等の使用方法により4~10年間) | 販売開始直後 (通常6か月間) |
| 調査内容 | 副作用、有効性、使用状況、リスク因子など | 主に重篤な副作用の有無 |
| 法的根拠 | GPSP省令 | GVP省令※2 |
市販直後調査は、新有効成分を含有した医薬品などで実施され、その場合、市販直後調査と製造販売後調査(PMS)の両方を実施が必要とされることもあります。
※2:医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売後安全管理の基準に関する省令(平成16年9月22日厚生労働省令第135号)、略称としてGVP省令(Good Vigilance Practiceの略)。
「製造販売後調査(PMS)」の主な3つの種類
ここから、医薬品や医療機器の承認後の安全性対策として課される、「製造販売後調査(PMS)」について説明をしていきます。GPSP省令上は「製造販売後調査等」と表現され、大きく3つの種類に分かれます。
①使用成績調査
使用成績調査は、医薬品が販売開始後に実際の医療現場で使用された際の安全性や有効性を確認するために行われる調査です。治験では対象患者数や条件が限られているため、市販後の幅広い患者様を対象に、副作用の発現状況や使用実態を把握することを目的としています。使用成績調査として、3種類の調査手法があります。
1)一般使用成績調査:日常診療下で、使用実態や副作用の発現状況を幅広く確認する調査。
2)特定使用成績調査:小児や高齢者、腎障害患者など、特定の背景を持つ集団における安全性を重点的に確認する調査。
3)使用成績比較調査:特定の薬剤の安全性をより客観的に評価するために、「他の薬剤」や「薬を使わなかった場合」とデータを突き合わせて比較する調査。
一般使用成績調査、特定使用成績調査が「その薬を使った人」だけを追うのに対し、使用成績比較調査は「比較対象(対照群)」を置くのが最大の特徴です。
② 製造販売後データベース調査
製造販売後データベース調査は、診療報酬の明細データを集約したレセプト情報※3や、電子カルテなどの医療情報データベース※4を活用し、医薬品の安全性や有効性を評価する調査です。平成30年4月にGPSP改正省令※5が施行され、新たな調査手法として実施されています。
実診療データを用いることで、多数の患者を対象とした解析が可能となり、まれな副作用や長期的な影響を効率的に把握でき、医療機関への個別訪問や症例票回収が不要なため、調査実施者の業務負担を抑えられる点も特徴です。
一方で、データの記録目的が研究ではないため、得られるデータにおける解析設計や結果解釈には限界があることもあります。
※3:医療機関が市区町村や健康保険組合に提出する、診療報酬の明細情報のこと。医師が行った検査、処方した薬、実施した処置などがすべて点数(金額)に換算されて記録されており、これがデジタル化されたものは「レセプト電算処理システム」を通じて蓄積され、「レセプト情報(データ)」と呼ばれる。
※4:医療情報データベースは、医療機関が行った診療情報や患者データを集約したもので、患者の傷病情報、処方された薬剤、臨床検査結果 等の情報が含まれる。
※5:医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令等の一部を改正する省令(平成29年10月26日公布 厚生労働省令第116号)・医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令等の一部を改正する省令の公布について(医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令関係)(◆平成29年10月26日薬生発第1026001号) 平成30年4月1日から施行。
③ 製造販売後臨床試験
製造販売後臨床試験は、医薬品が承認・販売された後に、追加の有効性や安全性のデータを得ることを目的として実施される臨床試験です。
通常の製造販売後調査(PMS)では十分な評価が難しい場合に行われ、治験と同様に計画書を作成し、被験者の同意を得たうえで実施されます。比較試験や特定の評価項目を設定できるため、科学的根拠の高いデータを収集できる点が特徴です。
得られた結果は、適応の妥当性確認や安全対策の強化に活用されます。
以上、「製造販売後調査等」の3つの種類を説明しました。実際に市販後安全対策としてどの調査を実施するかは、規制要件・医薬品の特性・承認時の評価結果、PMDA※6や厚生労働省が求める安全性・有効性の確認内容等に基づいて協議決定していきます。
※6:独立行政法人医薬品医療機器総合機構。略称はPMDA(Pharmaceuticals and Medical Devices Agencyの略)。医薬品の副作用や生物由来製品を介した感染等による健康被害に対して、迅速な救済を図り(健康被害救済)、医薬品や医療機器などの品質、有効性および安全性について、治験前から承認までを一貫した体制で指導・審査し(承認審査)、市販後における安全性に関する情報の収集、分析、提供を行う(安全対策)ことを通じて、国民保健の向上に貢献することを目的とする。
製造販売後調査(PMS)を実施する流れ
ここからは製造販売後調査(PMS)の中でも代表的な「一般使用成績調査/特定使用成績調査」について、主な調査の流れやポイントをご説明します。
①実施計画書、調査票案等の作成
「一般使用成績調査/特定使用成績調査」の実施を計画する場合、まず初めに行う実施計画書、調査票案等の作成は、調査の科学的妥当性と倫理性、そしてデータの信頼性を担保するための最も重要な準備段階です。
まず、調査の目的を明確にし、実施計画書を作成します。ここには、調査の対象となる患者の条件、目標症例数、観察期間、評価項目(有効性・安全性)、および統計的な解析方法を記載します。使用成績調査は「日常診療下」での実態把握が目的であるため、実臨床を妨げない自然な観察設計が求められます。
次に、実施計画書に沿って、医師が診療データを記入する調査票案を作成します。
従来、紙調査票での調査票回収が行われてきましたが、現在は医師の負担を軽減しつつ正確なデータを効率的に収集する電子的な入力システム(EDC:Electronic Data Capture)を利用するケースも増えています。
②実施医療機関の選定と契約締結
使用成績調査を開始するにあたっては、まず調査の目的に合致した実施医療機関の選定から始まります。
使用成績調査は「日常の診療下」での実態を把握することが目的であるため、特定の大学病院だけでなく、地域の基幹病院やクリニックなど、幅広い医療機関が対象となります。選定の際には、対象疾患の患者数、適切な症例報告を行う能力、そしてGPSP省令を遵守できる体制があるかを確認します。
医療機関が決まると、メーカー(製造販売業者)と医療機関の間で「実施契約」を締結します。契約書には、調査予定症例数、調査期間、費用の支払い条件(一症例あたりの委託費など)を明記します。
また、この段階でメーカーは医療機関の医師に対し、調査の趣旨、対象患者の定義、観察項目などの説明を行い、適正なデータ収集への協力を依頼します。
➂患者登録・調査票の回収・再調査
契約完了後、実際の調査フェーズに入ります。まず、対象となる患者様が受診した際に「患者登録」を行います。
これは、特定の副作用が出た患者だけを恣意的に選ぶといったバイアスを避けるため、使用開始時に全例、あるいは一定のルールで事前に登録する仕組みです。登録後、医師はあらかじめ定められた観察期間(例:半年、1年など)にわたり、薬剤の効果や副作用の有無、臨床検査値などを記録します。
観察期間が終了すると、医師によって作成された調査票を回収します。EDCシステムを利用する場合は電子データを送信します。
メーカーの担当者は、回収したデータに不備や矛盾がないかを確認(点検)します。もし記録が漏れていたり、副作用の重篤度が不明確だったりした場合は、再度医師に確認を行う「再調査」を実施します。このステップにより、情報の精度と客観性を高め、後の解析に耐えうる高品質なデータを集積します。
④安全性定期報告・再審査申請、適合性調査
収集・蓄積されたデータは、最終的に厚生労働省への報告や、製品の価値を再評価するプロセスに使われます。
メーカーは、調査で得られた安全性情報を定期的にまとめ、PMDAへ「安全性定期報告」として提出します。ここで新たな副作用リスクが判明すれば、添付文書の改訂などの措置が取られます。
さらに、新薬には一定期間(原則8年など)の再審査期間が設けられており、その期限が来ると「再審査申請」を行います。これは、市販後の全データに基づき、改めて「この薬を市場に置いてよいか」の審査を受ける手続きです。
この際、提出したデータが正しく収集されたかをPMDAがチェックする「適合性調査」が行われます。契約書から調査票の原本まで、一貫して正しく管理されているかが厳しく評価され、これに合格して初めて、その製品の市販後の安全性が公的に認められたことになります。
製造販売後調査(PMS)における課題
先に説明した「使用成績調査」の主な流れをふまえ、実施にあたってはいくつかの課題が出ることもあります。
例えば、医療機関ごとの調査契約については、施設によって契約条件や手続きが異なり、依頼・契約業務が煩雑になることもあります。
また、症例調査票の回収では、医療機関の多忙さから提出遅延が生じる可能性もあり、適切な時期での督促や進捗管理を実施する必要があります。
このような課題の発生を想定し、調査の実施にあたっては、製造販売業者として適切な人員・管理体制を整備する必要があります。そのため、メーカー(製造販売業者)で十分な体制確保が難しい場合、適切に業務が遂行可能な能力をもったCROを選定し、業務委託の検討をする必要があります。
製造販売後調査(PMS)の最新動向について(レジストリデータベース調査、要指導医薬品の安全性調査)
ここから、昨今の調査動向として、医薬品の製造販売後調査(PMS)における「レジストリデータベース調査」と、「要指導医薬品の製造販売後安全性調査」についても紹介します。
①レジストリデータベース調査
「レジストリデータベース調査」は、近年、医師の負担軽減やデータ収集の迅速化を目指し、既存の疾患レジストリ(学会や研究グループが構築した患者データベース)を活用する調査手法として、注目をされており、近年、PMDAが承認時に「レジストリを活用した調査」を条件として課す事例も出てきています。
レジストリとは、特定の疾患、治療等の医療情報の収集を目的として構築したデータベースのことで、患者数や患者分布の把握、疾患の治療とその有効性や安全性に関する様々なデータを収集しています。
これらのデータを、疾患の理解や医療の向上のための利用から、新薬開発や市販後の安全対策を講じるために活用することができます。※7
対象医薬品や医療機器を利用した疾患領域のデータベースがあれば、すでに蓄積されているデータを使うため、ゼロから調査を始めるよりも早く結果が得られたり、医療機関での調査協力の負荷を軽減するメリットがあります。
②要指導医薬品の製造販売後安全性調査
要指導医薬品は、薬剤師による対面販売が必要な市販薬であり、OTC医薬品※8の一部として位置づけられています。ダイレクトOTCや、スイッチOTC医薬品が医療用から一般用へ移行した際、要指導医薬品として製造販売後安全性調査の実施が求められます。
要指導医薬品の製造販売後安全性調査は薬剤師の対面販売下でその安全性を確認するための調査で、購入者に対し使用後の副作用の有無や、説明内容を正しく理解して服用できたかなどをアンケート形式等で調査します。アンケートの回答内容により、特定の副作用が懸念される場合は、薬剤師による詳細な追跡調査を実施することもあります。
調査期間は原則として3年間(成分によっては1〜4年)設定され、この期間に蓄積されたデータに基づき、将来的に「一般用医薬品(第一類〜第三類)」へ移行して良いかが再審査されます。セルフメディケーションにおける「未知の副作用」や「不適切使用」を早期に発見するための極めて重要なプロセスです。
要指導医薬品の製造販売後安全性調査も、従来は紙のアンケートや調査票による情報収集がされてきましたが、令和7年8月に要指導医薬品の製造販売後調査等の実施方法に関するガイドラインに関する質疑応答集※9が提示され、電子的な方法による調査が可能であると明記されました。
これらレジストリデータベース調査や要指導医薬品の電子的調査のように、今後、新たな調査手法や電子的調査実施はさらに進んでいくと考えられます。
※7:参考文献…レジストリとその利活用 その1、レジストリを用いた製造販売後データベース調査の検討の進め方 -2025年02月版-(日本製薬工業協会)
※8:医師の処方箋なしで薬局やドラッグストアで購入できる一般用医薬品のこと。OTCはOver The Counterの略。
※9:要指導医薬品の製造販売後調査等の実施方法に関するガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)について(令和7年8月26日事務連絡)
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製造販売後調査(PMS)についてまとめ
本記事では、製造販売後調査(PMS)の定義・目的から、市販直後調査(EPPV)との違い、使用成績調査/製造販売後データベース調査/製造販売後臨床試験の3つの調査種類、一般・特定使用成績調査の進め方、さらにレジストリ活用や要指導医薬品の調査を含む最新動向について解説してきました。PMSは長期間にわたる運用体制の構築や、医療機関との連携のための実施体制等、実際の運用を想定した確実な体制構築が重要となります。
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