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DTx(デジタルセラピューティクス)の国内状況と今後の期待

2026年5月25日
臨床開発

本稿の事実関係は、執筆時点(2026年5月1日)までに公表された当局・業界団体等の情報に基づいています。承認品目の最新一覧はPMDA・厚生労働省の公表をご確認ください。

はじめに

デジタルセラピューティクス(DTx :Digital Therapeutics)は、特定の疾患の予防、管理、治療を目的とする医療機器として、デジタル技術を活用した革新的な治療手法です。一般的なヘルスケアアプリとは異なり、臨床試験で有効性が科学的に証明され、規制当局の承認を経た医療機器に該当します。日本におけるDTxの現状と今後の展望について、公開情報で確認できる範囲の動向を整理します。

国内における承認状況と市場規模

承認製品の推移

2020年にCureApp SC(ニコチン依存症治療アプリ)が国内初のDTx製品として薬事承認・保険収載されました。続いて2022年にCureApp HT(高血圧治療補助アプリ)が薬事承認され、2023年に保険収載されています。また、サスメド Med CBT-i(不眠障害用アプリ)など、疾患領域の広がりも見られています。

日本製薬工業協会(JPMA)が2025年5月に公表した調査では、2025年2月時点で国内で薬事承認を得たDTxは5製品に整理されています(ドイツ・米国と比較した際のベースラインとしての集計)。当該資料で列挙されているのは次のとおりです。

  • CureApp SC(適応症:ニコチン依存症)
  • CureApp HT(適応症:高血圧症)
  • サスメド Med CBT-i(適応症:不眠障害)
  • CureApp AUD(適応症:アルコール依存症/飲酒量低減治療補助)
  • ENDEAVOR RIDE(適応症:注意欠如・多動症)

個別製品については、不眠障害用プログラムにおいて2024〜2025年にかけて製造販売承認事項の一部変更に関する手続が報じられるなど、上市後の機能・運用面のアップデートも進んでいます。

市場規模の見通し

調査会社による推計値は定義や対象範囲の取り方によって幅があります。Grand View Research の日本向けホライゾンOutlookでは、日本のデジタルセラピューティクス市場の売上高が2024年に約1億5,570万米ドル、2030年には約6億9,600万米ドルに達するとされ、2025年から2030年の年平均成長率(CAGR)は28.9%という見通しが示されています。

開発パイプラインについても、JPMAの同一資料では、ドイツ・米国と比べて国内の承認本数・開発件数が限定的であること、いわゆる「SaMD(SaMD :Software as a Medical Device)ラグ」への対応が論点になることが整理されています。疾病領域は糖尿病、肥満、心血管疾患、中枢神経系疾患、呼吸器疾患などへ広がる余地があり、エビデンスと償還の両面での議論が続くと考えられます。

薬機法上の位置づけと規制環境

日本において、DTxはクラスII以上の医療機器プログラム(SaMD)として、医療機器の認証・承認の対象となります。従来の医薬品や医療機器と同様に、臨床試験によるエビデンスの構築が必須であり、効果や効能を明示して実臨床で使用可能となります。承認後は、一般的な医療機器と同様に中央社会保険医療協議会(中医協)の場で製品特性を踏まえた議論がなされ、保険償還の可否・水準が決まります。薬事承認があっても、償還の議論は別プロセスとなる点が事業環境に影響します。

規制・産業政策としては、厚生労働省による「プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略」に沿った施策に加え、優先審査の試行、プログラム医療機器に係る二段階承認の考え方、変更計画の事前確認(IDATEN制度)、使用実績を踏まえた再評価(チャレンジ申請)など、SaMD/DTxの開発・改良を前提とした制度整備が進められています。一方で、JPMAの比較調査でも指摘されているように、ドイツや米国のデジタルヘルス規制と比較した際の制度設計・スピード感が、開発投資の見通しに影響し続けています。

DTxがもたらす価値と期待される効果

DTxは、医療従事者と患者様の双方に大きな価値をもたらす可能性を秘めています。

医師にとっては、患者様のデータをリアルタイムで把握できることにより、診断精度の向上や治療効果の客観的な評価が可能になります。従来の診療では把握が困難だった、患者様の日常生活における症状や行動パターンを継続的にモニタリングできるため、より個別化された治療戦略の立案が期待されています。

患者様にとっては、自己管理の促進と健康状態の可視化が大きなメリットです。スマートフォンやタブレット端末を通じて、自宅や外出先でも治療プログラムにアクセスできるため、医療アクセスの均等化が実現されます。また、従来の薬物療法と比較して副作用リスクが低いことも、DTxの大きな利点の一つです。

さらに、慢性疾患の管理においては、患者様の治療継続性を向上させ、長期的な健康アウトカムの改善につながることが期待されます。特に、生活習慣病や依存症など、行動変容が重要な要素となる疾患領域において、DTxの効果が顕著に現れる可能性が高いとされています。

今後の課題と期待される展開

DTxの普及に向けては、いくつかの重要な課題が存在します。

第一に、医師と患者様の認知度が依然として十分とは言えないことが挙げられます。日本デジタルヘルス産業協会(JADHA)などでも、円滑な利活用と認知向上に向けた論点整理が公表されています。医療従事者向け教育や患者様向け情報提供の継続が不可欠です。

第二に、保険償還制度の整備が事業予見性に大きく関わります。DTxの開発には多額の投資が必要であり、償還の見通しが明確でなければ、企業の開発意欲に影響します。エビデンスに基づいた評価と、プログラム医療機器の特性に沿った支払い設計が引き続き焦点となります。

第三に、ITリテラシーの問題があります。高齢者を中心に、デジタルデバイスの操作に不慣れな患者様も多く、DTxの利用を阻害する要因となる可能性があります。ユーザビリティの向上や、操作サポート体制の整備が重要です。

第四に、個人ヘルスケアデータ(PHR :Personal Health Record)の取り扱いに関する課題があります。DTxは大量の個人データを扱うため、プライバシー保護とデータセキュリティの確保が必須です。適切なデータ管理とガバナンス体制の構築が求められます。

まとめ

DTxは、日本の医療システムに革新をもたらす可能性を秘めた技術です。承認製品の追加、上市後変更やエビデンス更新、市場規模の伸長見通しなど、着実に論点は蓄積しています。一方で、認知度の向上、償還に関する議論、ITリテラシー、データ管理の適正化など、解決すべき課題も多く存在します。

今後、規制環境の整備と産業界の取り組みが進むことで、DTxはより多くの患者様に適切な治療を提供できるようになると期待されます。特に、慢性疾患の管理や行動変容を伴う治療において、DTxの真価が発揮されるでしょう。医療のデジタル化が進む中、DTxは単なる技術の進歩ではなく、患者様中心の医療を実現する重要なツールとして、その役割を拡大していくことが期待されます。

DTx関連試験(SaMD/Non-SaMD)をご検討の方へ

DTxの開発および承認取得には、医薬品医療機器法(薬機法)やSaMDを含む規制への適合確認、GCPに基づく臨床試験の設計・実施・モニタリング、データマネジメント、薬事申請に向けた資料整備など、領域を横断する専門知識と実務体制が求められます。対象がプログラム医療機器である場合は、ソフトウェアの更新や運用設計が製品価値と直結するため、試験の計画段階から規制上の位置づけと事業戦略を併せて整理することが重要です。

開発企業や医療機関のみでの体制では、十分なリソースや経験を確保しづらい場面もあります。当社(ArkMS株式会社)では、多数の治療アプリ・診断アプリ、プログラム医療機器等に係る試験を支援しており、事業戦略の整理から薬事関連の検討、PMDAへの相談支援から、臨床試験の実務まで一貫して支援してきた実績があります。

DTxをはじめとするプログラム医療機器の開発や臨床試験について外部と連携した推進をご検討中の方、または事業戦略・薬事対応を含めた試験支援をお考えの場合は、お気軽に当社までお問い合わせください。

出典・参考資料

1. 日本製薬工業協会(JPMA)医薬品評価委員会 「日本のデジタルセラピューティクス(DTx)の現状と課題 ―ドイツ・米国の制度との比較―」(2025年5月公表、PDF)
   https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/eo4se3000000b3qz-att/CL_202505_TF1_DTx.pdf
2. Grand View Research 「Japan Digital Therapeutics Market Size & Outlook, 2025–2030」(Horizon)
   https://www.grandviewresearch.com/horizon/outlook/digital-therapeutics-market/japan
3. 医薬品医療機器総合機構(PMDA) Software as a Medical Device(SaMD)関連ページ(英語)
   https://www.pmda.go.jp/english/review-services/reviews/0009.html
4. 日本デジタルヘルス産業協会(JADHA) 「DTxの円滑な利活用を巡る課題と認知向上に向けた施策」(2025年9月3日公表資料、PDF)
   https://jadha.jp/news/pdf/20250903/document.pdf
5. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 承認品目・審査情報(プログラム医療機器・医療機器の最新一覧の確認先)
   https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/devices/0056.html
6. サスメド株式会社 プログラム医療機器調査会における不眠障害用プログラムの製造販売承認事項一部変更承認の了承に関するニュースリリース
   https://www.susmed.co.jp/news/post/9384/

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