本稿の事実関係は、執筆時点(2026年8月5日)までに公表された関連情報および当社サービス内容に基づいています。関連する法令・ガイドラインなどは改訂されることがあるため、最新情報は厚生労働省、関係団体の公表資料をご確認ください。
はじめに
~「薬を届ける」だけでは、治療は終わらない~
スペシャリティ医薬品や、在宅投与・服薬管理など患者様ご自身による管理を伴う治療が増えるなか、患者様が治療を正しく理解し、安心して継続できるよう支える仕組みとして「患者支援プログラム(PSP:Patient Support Program)」の関心が高まっています。
こうした治療では、薬剤そのものに関する情報だけでなく、治療開始に必要な手続き、投与・服薬方法、保管や受け取り、治療スケジュール、継続時のフォローなど、患者様が理解・対応しなければならない事項が多岐にわたる場合があります。
また、製薬企業が患者様へ直接接点を持つ際には、広告規制や業界の自主規範等を踏まえ、情報提供の内容・目的・方法を適切に設計することが重要です。その選択肢の一つとして、製薬企業から委託を受けた中立的な第三者がPSPの運営を担うケースがあります。本記事では、PSPの基本的な考え方から、必要とされる背景、支援の進め方までをわかりやすく解説します。
患者支援プログラム(PSP:Patient Support Program)とは?
PSP とは、患者様が治療を円滑に開始し、その後も安心して継続できるよう支援するプログラムです。患者様からの相談への対応をはじめ、治療や自己管理に関する情報提供、治療開始に必要な各種手続きの支援、定期的なフォローなどを組み合わせて、患者様の不安や負担を軽減するとともに、アドヒアランス*1の維持と治療継続を支援します。
*1 本稿では、処方・指示された治療計画に沿って服薬・投与を継続することを指します。国際的には、長期療法における服薬遵守(adherence)の概念として整理されています[1]。
PSPで最も重要なのは、患者様一人ひとりの状況に応じた支援を行うことです。患者様が抱える悩みや不安は、それぞれ異なります。「薬の使い方が分からない」「治療を続けられるか不安」「自宅での治療に移行するときに何を準備すればよいのか分からない」「困った時に誰に相談すればよいのか分からない」——こうした疑問や不安の声に丁寧に耳を傾け、必要な情報や支援につなげていくことが、安心した治療継続につながります。そのためPSPでは、看護師などの専門スタッフが、製品特性やあらかじめ定められた手順・資材などに基づき、治療スケジュールの説明、導入手続きのサポート、投与手技・服薬方法に関する説明、医療機関との情報共有、プロアクティブコール(PSP側から定期的に行う確認の連絡)などを組み合わせて、患者様の治療継続を支援します。治療開始が決まった患者様だけでなく、在宅での投与・服薬への移行を希望される方、治療継続中の患者様、さらにそのご家族・介護者など、それぞれの状況に応じたきめ細かな支援が求められます。
PSPが必要とされる背景
近年のスペシャリティ医薬品では、製品特性の理解や治療開始に必要な手続き、保管・配送、投与・服薬管理などが複雑になり、患者様・医療機関双方の負担が大きくなりやすい傾向があります。
特に在宅投与や服薬管理が重要な製品、取り扱い条件の厳しい製品では、次のような課題が重なりやすくなります。
●説明事項が多く、患者様ごとの状況差も大きい
●同意取得や書類管理など、治療導入時の対応事項が多い
●温度管理・保管・受け取り条件など、製品取り扱いに制約がある
●廃棄物の取り扱いや関連法規への対応など、継続的なサポートが必要となることがある
●在宅での投与・服薬への移行支援まで、医療機関のみでは十分に対応することが難しいことがある
診療時間が限られるなか、これらの説明や手続き、治療開始後の継続的なフォローまでを医療機関のみで担うことは、医療従事者(主に医師・看護師・薬剤部)の業務負担につながる場合があります。こうした背景から、治療導入から投与・服薬の継続までを長期的に支えるPSPを活用することで、患者様の不安や負担の軽減、アドヒアランスの維持、さらには医療機関の業務負担軽減にも寄与することが期待されます。
PSPで支援する主な内容(3つのステップ)と運営上の位置づけ
PSPの具体的な支援内容は、製品特性や治療方法、プログラムの設計によって異なります。例えば、在宅投与を伴う治療では、投与方法や保管・配送などに関する支援が重要となり、経口薬では服薬方法の説明や継続的なフォローなどが中心となる患者様がいらっしゃいます。ここでは、PSPにおける主な支援を3つのステップに分けて紹介します。
Step1. 治療導入
治療導入の段階では、患者様が不安なくスムーズに治療を開始できるようサポートします。製品やプログラムごとに定められた内容に基づき、治療導入に関する補足説明、プログラム参加や個人情報の取り扱いなどに関する必要な同意手続きの支援、初回の投与・服薬日や外来受診日などのスケジュール確認、調整支援などを行います。
Step2. 在宅治療の導入
在宅治療へ移行する患者様に対しては、あらかじめ定められた手順や資材に基づく投与手技・服薬方法の説明、在宅治療や配送などに必要な各種手続き、製品保管や受け取りに関する説明などを行います。在宅投与を伴う製品では、温度管理などに必要な保管機材の手配、機材の配送日調整、製品の配送スケジュールの確認・調整支援などが加わる場合もあります。在宅治療を円滑にスタートするためには、患者様への説明だけでなく、医療機関、製薬企業、医薬品卸、物流事業者など関係者間の情報を適切につなぎ、治療開始までに必要な準備や手続きの抜け漏れを防ぐことが重要です。
Step3. 治療継続の支援
治療開始後は、患者様が安心して治療を継続できるよう支援します。製品特性に応じ、例えば使用済みの注射針・器材や廃棄物の取り扱い、投与・服薬タイミングなどについて、定められた手順・資材に沿った説明や確認を行います。また、患者様からの問い合わせに対応するだけでなく、PSP側から患者様へ連絡するプロアクティブコールを組み合わせることもあります。例えば、製品の受け取り状況、次回の投与・服薬予定、投与・服薬後の状況などを確認することで、治療継続上の困りごとを早期に把握し、必要に応じて医療機関や関係者につなぎます。
このように、問い合わせを受けて対応する「受動的なサポート」に加えて、治療継続を見据えた「能動的なフォロー」を組み合わせることも、PSPの特徴の一つです。
PSPは患者様と複数の関係者をつなぐ
実際のPSP運用では、患者様への説明や相談対応だけでプログラムが完結するとは限りません。在宅投与や服薬管理が重要なスペシャリティ医薬品、厳格な取り扱い条件を伴う製品では、関連法規に基づく各種手続き、投与手技・服薬方法の習得、配送や個人情報の取り扱いに関する同意、保管環境の整備などが、治療開始前に並行して進む場合があります。こうした局面では、患者様への支援だけでなく、それぞれの関係者が持つ情報や進捗を適切につなぎ、治療開始から継続までを円滑に進める「ハブ」としての役割を期待されています。工程ごとの役割分担の一例(在宅投与を伴う製品を含む)は、次の図のとおりです。
図:工程ごとの役割分担の一例(PSP/カスタマーセンターの関与範囲)
| 工程 | 主な担い手 | PSP/カスタマーセンターの役割例 |
|---|---|---|
| 発注・納入調整 | 医療機関・卸売企業 | スケジュール把握、提出情報の不備確認、関係者への情報連携 |
| 個宅配送の準備 | 卸売企業・物流 | 配送・受け取りに必要な同意や情報の取得支援、配送タイミングの調整支援 |
| 治療導入の手続き | 医療機関・患者様・ご家族 | 手続き案内、必要な同意手続きの支援、治療開始前の準備事項の確認 |
| 投与・服薬のフォロー | 医療機関・PSP窓口 | リマインド、問い合わせ対応、投与・服薬後の状況確認(プロアクティブコール) |
※上記は運用設計の一例です。製品特性や契約範囲により、担い手・役割は変動します。
PSPを適切に運営するために
PSPを検討・運営するうえで重要なポイントの一つが、患者様への情報提供の内容や接点の持ち方です。医療用医薬品の領域では、製造販売業者が医薬関係者以外の一般の方を対象とした製品情報の広告・訴求する行為について、医薬品医療機器等法および厚生労働省の「医薬品等適正広告基準」により、原則として制限されています[2][3]。また、厚生労働省の「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」や、日本製薬工業協会(製薬協)の「コード・オブ・プラクティス」でも、販売情報提供やプロモーションに関する考え方が示されています[4][5]。加えて、医療用医薬品製造販売業公正取引協議会が運用する公正競争規約*2では、景品類の提供制限等を通じて公正な競争秩序の確保が図られています[6]。患者様にとって有用な支援と、これらの枠組みを踏まえた適正な接点設計を両立するために、慎重な検討が求められます。
*2 正式名称は「医療用医薬品製造販売業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約」です(運用主体:医療用医薬品製造販売業公正取引協議会)。
PSPでは、患者様にとって有用な支援を実現しながら、こうした法令・ガイドライン・自主規範の趣旨を踏まえ、情報提供の内容・対象者、方法、運営手順などを適切に設計することが重要です。その選択肢の一つとして、PSP運営の専門性を持つ外部事業者に運営を委託する方法があります。
製薬企業から委託を受けた専門性を持つ外部事業者があらかじめ定められた業務範囲・手順・情報提供資材などに基づいて患者様を支援することで、適切な情報提供体制を構築するとともに、医療機関や医薬品卸、物流事業者などとの情報連携を支援し、PSP運営の品質を安定させることにもつながります。
ArkMSが提供するPSP─メディカルインフォメーション・カスタマーセンターサービス
ArkMSでは、「メディカルインフォメーション・カスタマーセンターサービス」の一環として、製品特性や治療フローに応じたPSPの構築・運営を支援しています。その基盤となっているのが、患者様や医療現場の不安や心配を先回りして最適なサポートを提案できるCROとしての力です。
PSPでは、患者様からの問い合わせに対応する従来型のカスタマーセンター機能に加え、患者様へのプロアクティブなフォロー、治療導入に必要な各種手続きの支援、投与・服薬スケジュールの管理、医療機関や関係事業者との情報連携などを組み合わせ、治療の円滑な導入と継続を支援します。
さらに、ArkMSがこれまで30年以上にわたる臨床開発や製造販売後調査の支援で培ってきた品質管理やデータオペレーションのノウハウを活かし、製品ごとの特性や治療フローに応じたPSPの運用体制を設計し、日々の安定した運営につなげています。
患者様・医療機関・製薬企業・流通をつなぐ「ハブ」として
PSPにおいて重要なのは、患者様への説明や相談対応だけではありません。治療開始までには、患者様、医療機関、製薬企業、医薬品卸、物流事業者など、複数の関係者が関わるケースがあります。ArkMSでは、それぞれの関係者間に立ち、患者様へのサポートに加えて、治療導入に必要な手続き、投与・服薬スケジュール、製品配送、継続フォローなどに関する情報を一元的に把握し、関係者へ必要な情報をつなぐ「ハブ」としての役割も担います。これにより、患者様への支援と、治療を取り巻くオペレーションを分断することなく、一連のプロセスとして支援することが可能になります。
アルフレッサグループとの連携による、患者支援と医薬品流通の融合
ArkMSはアルフレッサグループの一員として、グループが持つ医薬品流通機能との連携が可能です。患者様への相談対応・継続支援に加えて、製品特性やPSPの設計に応じ、医薬品卸や物流事業者と連携した個宅配送、配送スケジュール管理、製品受け取りに関するサポートなど、医薬品が患者様へ届くまでのプロセスを含めた支援体制を構築することができます。患者様への「情報提供」と、医薬品を適切に届けるための「流通・オペレーション」。その双方をつなぎながら、患者様・医療機関・製薬企業・医薬品卸・物流事業者を横断してコーディネートできることが、ArkMSが提供するPSPの特徴の一つです。
患者様の治療を「続けられる仕組み」へ
PSPは、単に患者様からの問い合わせに対応するだけのサービスではありません。
治療開始前の準備から、在宅治療への移行、投与・服薬の継続、製品配送、そして患者様への継続的なフォローまで、製品特性や治療フローに応じた支援の仕組みを構築することで、患者様が安心して治療を続けられる環境づくりを支えます。ArkMSでは、専門スタッフによる患者様へのサポートと、CROとして培ってきた品質管理・データオペレーションのノウハウ、さらにアルフレッサグループの流通機能との連携を組み合わせ、製品ごとに最適なPSPの構築・運営を支援しています。
患者様を支えるPSPの構築・運営について、ご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
関連サービス:メディカルインフォメーション・カスタマーセンター(https://www.arkms.co.jp/service/medical-information/)
出典・参考資料
1. World Health Organization “Adherence to long-term therapies: evidence for action” (2003) https://iris.who.int/handle/10665/42682
2. 厚生労働省 「医薬品等の広告規制について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/koukokukisei/index.html
3. 厚生労働省 「医薬品等適正広告基準の改正について」(平成29年9月29日薬生発0929第4号)関連資料
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000179262.pdf
4. 厚生労働省 「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインについて」(平成30年9月25日薬生発0925第1号) https://www.mhlw.go.jp/content/000359881.pdf
5. 日本製薬工業協会 「製薬協コード・オブ・プラクティス」
https://www.jpma.or.jp/basis/code/index.html
6. 医療用医薬品製造販売業公正取引協議会 「医療用医薬品製造販売業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約」関連資料
https://www.iyakuhin-koutorikyo.org/ (最新版は同協議会の公表をご確認ください)
